38 木々の目覚め

 俺が独立乗務となってからもう7ヶ月位が経つだろうか。勝島さんと乗務するのはかなり久しぶりの事となる。明後日から始まる御召の研修を楽しみに思いながらも、何時もの走り慣れた京浜の街並みを過ぎて行く。

 電車は京成の3400形。足回りは京成の旧AE形車輌の物を流用している為、減速時の回生失効が早く、低速域のブレーキングにコツのいる車輌だった。空港線系統の急行 成田行き。俺の駆る電車は平和島に停車した。
 京急では駅で長時間停車する場合は運行を担当している職員もホームに立ち、御客様の御案内にあたる。勿論この列車も例外ではなく、俺は電車を降りた。
 ふと、乗務員室すぐ後方の扉から乗車した乗客から、こんな会話が聞こえた。
「谷上ゆりあって、知ってる?」
「あの"PASSENGER"歌った娘?」
「7年位前に行方不明だって噂があったけど…。」
片方のOL風な女性が言うと、もう一方の女性は重く、その口を開いた。
「確か…自殺したんでしょ?京急線に飛び込んで…。」

――!

 ゆりあは死んでいたのか…?

38話続き


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