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   「赤い電車に乗って EX -Another story-」

 今日は久しぶりの休日。
ここ数週間、愛香と遊んでいなかったので出かけることにした。
「ねぇ、お兄ちゃん。今日は、どこ行くの?」
「ん、そうだな・・・。愛香はどこ行きたい?」
「うーん・・・動物園!!」
「動物園か。いいよ。じゃ、行こうか」
俺が言うと、愛香は元気に、無邪気に言った。
「じゃあ、まなみちゃんと、えみりちゃんと、美咲ちゃんも呼んで、一緒に行ってもいい?」
・・・愛香。・・・一応質問してるなら、答えも待たずに部屋を出ないで欲しいんだけど・・・。

 「動物園だって!」
「象さん見れるかなぁ!」
「あたしはパンダが見たい!」
「ねぇお兄ちゃん、見れるの?」
駅への道のり。四人の少女は、頭痛がしそうなぐらい、高く大きな声で騒いでいる。
今日は仕事よりも疲れそうな気がしてきた。
「多分・・・見れると思うよ」
呟くようにして答えた言葉を、彼女たちは聞き逃さない。
「やったぁ! 早く行こうよー!」
「じゃあさ、競争ね!」
「よーい、どん!!」
四人は走り出してしまった。
迷子になってはいけないと、慌てて俺もあとを追う。
は、速い・・・!



 北品川駅のホームには、既に電車が止まっていた。
だが、なぜか出発する気配はない。ダイヤで定められている発車時刻も大幅に過ぎている。
不審に思って、俺はホームの前の方へ行ってみた。
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
愛香が不思議そうな顔をする。俺は噛み砕いて説明してあげた。
「電車が止まっちゃったみたいだから、どうしたのかな、って」
運転席の方に5人ほど駅員たちが集まっている。
「どうしたんですか?」
この電車に乗務していた久里浜乗務区の車掌、亀戸さんに声をかける。
「おお、戸部君じゃないか。や、愛香ちゃんの友達も一緒かい。大変だねぇ。こっちは運転士がぶっ倒れちゃって。多分貧血だと思うんだけどねぇ。かなり具合悪そうで・・・」
「おい、そろそろ発車させないとダイヤにすごい影響が出るぞ!」
亀戸さんの隣にいた初老の駅長らしき人が叫ぶ。
「ん? あ、もうそんな時間か。誰か運転士はいないか?」
亀戸さんが言ったとたん、周囲に沈黙が流れた。どうやら誰もいないらしい。


 と、言うことは・・・まさか・・・。
不吉なものが胸によぎり、俺はその場をこっそり去ろうとした。が。
「いるよ! お兄ちゃん、運転士だよ!」
・・・・・愛香め、素直すぎる。
「おお、そういえば君は! ・・・そうかそうか。じゃ、神奈川新町まで運転してってくれ。そこまで行けば代わりの人もいるだろう」
「・・・え? 俺ですか? でも、今日は制服も着てないし―――」
「俺がお前の後ろに立つ。乗客には見られないようにするよ」
うっ。言葉に詰まる。亀戸さんはなかなか口が上手い。このままでは四人を・・・。
ピンと閃いた。
「・・・いや、今日は愛香たちと来たもので・・・。皆を放って運転は出来ませんよ・・・」
「う・・・そうか・・・・」
我ながら上手い言い訳だと思った。

 「では、私が見ていてあげましょう」
突如後ろから声がした。
そこには優しそうな顔をした男が、――息子たちだろうか――愛香と同い年ぐらいの少年と少女を連れていた。
「お、おまえは・・・!」
「亀戸さん、お久しぶりです。でも、今はそれどころではないんでは?」
「おお、そうだった。というわけだ、戸部君。こいつに子供たちを預けて運転してくれ。こいつのことは俺が保障する」
万事休す。どうやら仕事を引き受けるしかないようだ。後でまた愛香が頬を膨らますだろうが。
「じゃ、戸部君・・・だね? この子達は任せてくれ」
にこっと笑いながら彼は言った。





 「ほら、ちゃんとして。こっちの男の子が正志で、女の子が伊代だよ」
私が息子と娘を紹介する。
「伊代ちゃん、正志君、あたしは三咲って言うんだ!」
「あたしはまなみだよ! で、こっちが妹のえみり。よろしくね!」
「うちは伊代! 八歳だよ〜!」
「あたしも八歳だよ!」
自己紹介の爆発の中、伊代は打ち解けたようだが、正志は固まったままだ。

 「ねー、正志君! 何歳?」
先ほど姉にえみりと紹介された子が、正志に話しかけてきた。
「わっ! あ、えっと・・・八歳だけど」
正志がぼそぼそと言う。相変わらずこの子は人見知りが激しくて・・・。私の陰に隠れてしまったので、フォローしてやった。
「この子達は双子なんだよ。あんまり―――」
「あんまり似てないよね!」
「おじさんとも似てないけどね〜!」
間髪いれずに反応してくる。うちの子もいれて女の子たちはみんな元気だ。

 「伊代ちゃん、正志君、ほら、見て! お兄ちゃん、運転してるよ!」
愛香ちゃんが言った。
と、そこで正志が動いた。
「かっこいい・・・」
「だよね〜。あたしもそう思うよ! 愛香ちゃんもそうだよね!」
「うん! お兄ちゃんが運転してるとこ、大好き!」



 「・・・ねー、おじさん、聞いてる? 自己紹介してないのおじさんだけだよ!」
「名前は?」
「何歳?」
「おじさん、運転士なの?」
ぼーっとしていたら、突如質問攻めだ。
「私は鳥沢遼だよ。運転士じゃなくて警察官なんだ。年は・・・秘密だよ」
私は笑いながら言った。それにしても、私だって戸部君と年はあまり変わらないというのに、おじさん、か・・・。
「ねぇ、おじさん。あとどれくらいで動物園?」
一番年上の子が聞いた。
「ん〜・・・次、かな? ・・・伊代、正志。せっかくだし、一緒に行くか?」
もともと散歩にきただけだったので暇ではあった。二人からは予想通りの答えが
帰ってきた。
「「行く!!」」


その時、運転席の方へと怪しげな影が近づいたことには、7人の誰もが気がつかなかった・・・・・・。


To be (戸部?) continued....


当駅1周年記念にハイド様より頂いたものです。「赤い電車に乗って」本編では第16話「夜のストレンジャー」〜第26話「美しき丘」辺りの物語となります。ハイド様の作風で「赤い電車に乗って」の登場人物がより個性的で活き活きとして、本編より素晴らしい作品です…。(05/04/01)京急蒲田

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