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   解答用紙の恋

 「100点」
それは、僕が全てのテストで取る点数の最高点であり最低点だった。銀行員である父親と母親の言うことを全て聞き入れ、小学校からの付き合いである貧乏人の友達との縁を切り、僕はこの名門私立中学に入学した。そして、毎日が勉強に明け暮れる日々だった・・・。

 「始め。」
担任の先生は教室の生徒全員に合図をした。皆は配られた解答用紙と問題用紙を裏返し問題を解き始めた。
「どうせ今回も100点なんだ。」
僕は、今回の期末テストも満ち溢れる自信で一杯だった。秒針の振れる音と共に、鉛筆の走る音が静かな教室に響いていた。

 「なんだ、あと35分もあるじゃないか。」
解き終えた。僕は、テスト問題を解き終えた後の無意味な時間の経過が何よりも嫌いだった。何気なく解答用紙を裏返す。解答用紙の裏は真っ白だった。解答用紙の裏が白い場合、僕は何かと落書きをする。大抵、僕の好きな電車やら青ダヌキロボットを鉛筆でカリカリ書いていた。
「面白くないな。」
僕は鉛筆で書いた青いタヌキロボットの落書きを書き終えると徐に其れを消し始めた。マンネリ化した落書きを書いても何の興味も沸かなかった。
「何か無いか・・・?」
ふと、頭の中にある物が過った。それは、アニメの少女だった。それも普通のアニメではなく、いわゆるオタクチックな「アキバ系」のアニメ少女だった。
「そんなものを書くのか?」
僕は、自分を警戒した。小さい頃から親に言い聞かされていた。「女の事なんか考えるな。勉強だけしてれば良い。」 だが、暇を持余している今、なす術は何も無かった。僕はかなりの抵抗を覚えながらも解答用紙の裏にそのアニメ少女を書き始めた。

 「へぇ。なかなか上手くかけるもんだ。」
微笑むアニメ少女の絵を見て、自分で書いたものとは思えないような錯覚に陥った。その絵は、自分でもプロと対等なぐらいの出来栄えではないかと自負できた。そして、そっとその少女の瞳を僕は見つめた・・・。

 ??? おい!? なんだ、これは!?

 目が覚めると、其処は唯真っ平で真っ白な地面だった。たじろぐ僕に、同じぐらい真っ白な細い腕が伸びた。
「大丈夫?」
僕は後退した。見たことも無い少女が僕をまじまじと見つめていた。何より驚いたのが、その少女は僕が解答用紙の裏に書いたあのアニメ少女だったからだ。
「ここ、何処? 君、誰?」
何が何だかさっぱり分からなくなった。困惑する僕を見て少女は不思議そうにこう言った。
「私も、分からない。此処が何処なのか。」
僕は、何も言えなかった。少女も、何も言わなかった。唯見つめあうだけの沈黙が其の場を覆っていた。気まずく思ったのか、少女は口を開いた。
「・・・私の名前、付けてくれますか?」
「!?」
少女は続けた。
「まだ、貴方と会って1分も経っていないけど、何故か貴方が愛しい人だって分かる。だから、そんな貴方に私の名前を付けて欲しい・・・だめ?」
僕は、首を横に振らなかった。
「そうだな・・・。」
名前、適当な名前で良いよな?「其の1」とか「2号」とかは流石に拙いけど、何となく今風の名前だったら良いんだろ?
「浦賀 愛梨(うらが あいり)ってのは如何だ?」
「うらが あいり?」
首を傾げて少女は言うと、僕は安直な名前の由来を少女に説明する。
「"浦賀"ってのは此処の最寄の駅の名前。"愛"って言葉が気に入ってるからで、"梨"は・・・」
少女は、覗き込むように僕の言葉の続きを聞いていた。
「"梨"は・・・?」
「"梨"は・・・梨が好きだから。」
僕がそう言うと、彼女は拍子抜けした。しかし、一息置くと小さく頷いた。其れを見た僕の頬が急に熱くなった。
「私、浦賀愛梨。よろしくね。」
愛梨は、明るくこう言った。

 愛梨は、何も知らなかった。必要最低限の会話が出来る程度の日本語と、笑う事と泣く事、怒る事しか出来なかった。そんな愛梨がとてつもなく僕の特別な存在に思えてならなかった。唯真っ白で僕達以外誰も居ない此処に二人きりで出会った事が、僕と愛梨をそうさせたのかも知れない。
「これは?」
「"ありがとう"。相手に感謝の気持ちを表す時や、大好きな人に送る言葉だよ。」
「ふーん。」
僕は、愛梨に言葉を教え始めた。愛梨が必要最低限、本当に僅かな言葉しか知らない事は、悲しくてならなかった。伝えたい気持ちを表現できない。そんな愛梨自身の不便を解消するためと、僕の自己満足を満たすためにそんな事をし始めたのだ。
「"ありがとう"。これでいいの?」
「うん。愛梨、覚えるの早いね。」
楽しかった。嬉しかった。生まれてこの方こんなに甘酸っぱい経験なんかした事が無かった。僕が何かを教えると、愛梨は其の度に興味を示してきた。目が合うと、微笑んだ。ずっと、ずっとこのままでいたい。このまま、二人きり死ぬまでいたい・・・。

 1ヶ月と5日経った頃だった。愛梨は、突然意味不明な言葉を発し始めた。
「もうそろそろ私は消えなくてはいけない。これは・・・運命なの。」
「愛梨!?」
「これは・・・運命なの。」
そう呟くと、愛梨は床に頼りなく倒れていった。
「おい、愛梨!?」
僕は、ハッとして愛梨の額に手を当てた。物凄く熱い体温が僕の右手を伝わった。暫くすると、愛梨の呼吸が苦しそうに途切れてきた。
「愛梨、大丈夫か!?」
「だい・・じょ・う・・ぶ。・・・で・・も・・・、もう・駄目なの・・・これは・・・運命・・だ・か・・ら。」
「愛梨!やめろ!目を覚ませ!」
「今ま・で・・・本当・・に・楽しかっ・た。・・・貴・・方・に・・出会え・て・・よか・った。私・が・・・消え・・て・も・・貴方の・・こと・は・・絶対・忘れ・・ないよ。・・」
愛梨は、最後にこう言った。
「ありがとう。」

 二度と、彼女が笑うことは無かった―

 「テスト終了。」
担任の先生の声で、テストの解答用紙が回収されていく。さっきのは、夢だったのだ。きっと。唯の、夢だったんだ・・・。終業のチャイムが鳴り響くと、生徒達は思い思いの場所に散っていった。

 そして、3日後、テストが帰ってきた。
「100点」
見慣れた数字だった。何も感じなかった。あの時から、何かを失ったような気持ちを背負ったままだった僕は、何気なく解答用紙の裏を見た。
「ここに、あの子が居たんだよな。」
今では、名前さえも思い出すことが出来なかった。
「確か・・・この辺りに描いたはず・・・。」
其処には、こう記されていた。
「ありがとう。 浦賀 愛梨」

 僕は、其の日から、また一回り大人になった―


恥ずかしいなぁ。本当に駄文ですね・・・。伝えたかったことは、愛に成績も金銭も関係ない、といった感じでしょうか。個人的には、いつも100点って所が許せません・・・。自分、中学時代の定期テストはほぼ全滅でしたから・・・。(05/03/03 京急蒲田)

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