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      2・14 Marunouchi Line



    丸の内線の赤が、やけに赤く感じる。

   「お荷物引いて下さい」のアナウンス。押し合いへし合いの車内。
   目に映るのは、全て何時もの朝なのに。


    通学鞄の中に入れたチョコレート。
   初めて作った手作りのチョコレート。

   学校着いたらこっそりと、彼の下駄箱の中に忍ばせるための。
   優しい笑顔を教えてくれた彼に、私の正直な気持ちを伝えるための。


    時々、急なカーブに差し掛かって電車が揺れる。
   会社や学校へ急ぐ人々が、川の流れのように鬩いで行く。
   鞄が人の間に潰されて、頑張って作ったチョコレートが不安になる。

   丁度、今の私の心のように。
   何かに押し潰されたりしないかのような。
   誰かに押し潰されたりしないかのような。


    ブレーキの音、エアーの音。電車が、次の駅に差し掛かる。
   電車が止まる。ドアが開く。降りる。乗る。降りる。乗る。
   沢山の命が、私の横をすり抜けて行く。
   ふと、彼が私のチョコレートを受け取ってくれるか不安になる。
   彼が私を認めてくれるか不安になる。

   無理なことは分かってる。
   無謀なことも分かってる。

   夕方の荻窪行きには、涙を流す自分がいることも分かっている。


    逃げ出したい。

   このトンネルを抜けて抜け出したい。
   誰もかも、彼も居ない大空へ。


    でも、何で私は電車を降りないの?
   今、ドアは開いている。
   ホームに降りれば、自由で楽な空が待っている。

   降りようか…。

   でも…



    「池袋行き、ドアが閉まります。」


    私の迷いを断ち切るかのように、立ち番のアナウンス。
   ブザーが鳴る。車外スピーカからは乗車促進音。
   そして、ドアが閉まる。

   もう、降りれない。
   もう、後戻りはできない。

   自分に嘘ついて、運命なんだと心に言い聞かせる。
   電車が動くと同時に、クーラーから冷気が一瞬吹き出る。
   私の髪を靡かせて、丁度、ドラマのように。

   でも、私はヒロインじゃない。

   それでも…私はこの電車に乗る。

   彼の元へ―


    ぱっ、と辺りが明るくなる。
   ドアの小窓から見えるのは、薄暗い地下鉄の中でほんの少しだけある地上区間。
   差し込む光が、眩しい位に私に反射する。

   何故か分からないけど、ほんの少しだけ、自信がもてたような…気がする。


    きっと、大丈夫だよね。


    きっと、伝わるよね。


    本当の気持ち―




5月初の鉄道小説。ガーナ電車がまだ走っている頃に書けばよかったなぁ、と。何故か分かりませんが最近書くテキストは女の子視点のものが多いです。変態か? それにしても季節外れでした…。 お話は変わりますが、丸の内線のシステム上のお話。丸の内線って、自動でブレーキが掛かっているんです。TASC(タスク)のおかげで…。駅長って、自動でブレーキが掛からないんです。お喋りが…。(05/05/21 京急蒲田)

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