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      路面電車の詩(うた)


    遠く彼方から、微かにあの音が聞こえて来る。

   飢えた獅子の様な低い唸り声のモーターと、軽やかなジョイント音のシンフォニーは、

   君を乗せた、路面電車の詩



    「チンチン電車、見に行こ!」

   この街で生まれ育った君と僕は、自分の名前が1人で言えるようになるそのずっとずっと前から、いつも一緒だった。そして、彼も一緒だった。

   君と、僕と、路面電車と



    中学校に入ると、君と初めて席が隣になった。6年もの歳月の間一度も隣り合わせにならなかった事が不思議だったけど、凄く嬉しかった。

   そんな事、君の前では口が裂けても言えなかったけど。

   だって、制服姿の君を見たら、話しかけることすら出来なかったんだから。

   何故か…わからないけど。

   一言も喋らずに、二人とも頬を赤らめ見つめ合うだけだった。

   そんな僕らをこっそり見守ってくれた、路面電車。



    それから、君と僕はそれぞれの夢へと駆けて行った。だから、別々の道を歩んでいった。

   お別れの日も、最後はやっぱり路面電車だった。僕の住む湯の川から函館の駅前まで、君と乗る最後の路面電車。

   降りしきる雪の中、君はこう囁いた。


   ―またいつか出逢ったら、正直な気持ち、話せるよね―?


   あの時の君の横顔、吐息、涙。全てが僕の白い贈り物だった。



    そして今日、君が帰ってくる。

   またいつか出逢ったら、正直な気持ち、話せるよね?


   大丈夫、きっと。



    大丈夫…。きっと



     大丈夫……。きっと―





         「愛してる。」





    電停に、恋人となった君が僕の傍に寄り添っている。沢山の想い出乗せた、路面電車の音と共に―


初の軌道線進出です。舞台は一応、函館市電のつもりです。現地取材、してないですが…。本当は短編小説の方に入れようか迷ったのですが詩的な要素が濃いので此方にて公開させていただきました。いつもの"想い出純愛モノ"です。幼馴染の仲でも、中学校に入学したとたん恥ずかしさを覚えるのって不思議ですよね。まさに思春期真っ只中。うらやましいなぁ…。そういえば、最近は吊り掛け台車の音もめっきり聞かなくなりましたね。(05/04/15 京急蒲田)

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