3 Mellow time

 帰りの電車の中で考えてしまった。愛香は本当にかわいい。自分のものにしてしまいたい。しかし、変な言い方をすれば愛香はもうすでに自分のものなのである。こうやって考えると俺はいわゆる親バカなのか、恋なのか。恋だったら普通の恋なんだろうか。それとも俺は俗に言うロリコンなのか・・・。
 「北品川〜、まもなく北品川です。お出口左側です。」
 あたかも目が覚めたかのようにわれに返った。次の瞬間、愛香が
 「きたしながわ〜、まもなくきたしながわ〜。おでぐちひだりがわです。」
などと大きな声で車掌の物まねをするもんだからあわてて
 「シーッ。電車の中は静かにするの。」
と言い聞かすと愛香はぷくっとほっぺを膨らませた。これがまたとてつもなくかわいくって思わず顔が熱くなった。そして、頭をなでてやった。
 そうしているうちに、800形6連の普通車はゆっくりと減速し、少しカクンというゆれと共にとまった。そのあとドアを開けるエアーの音が鳴り俺たちは電車を降りた。もうすっかり夜になっていて少し肌寒く、ひんやりとした風が通った。改札口の駅員が、
 「あれ、妹さん?」
なんて声をかけるので
 「・・・そうかな。」
と返す。北品川駅は京急でも比較的利用者が少ないので時折このような会話が繰り広げられる。今日話しかけてきたのは太田さんというひとで、40台半ばの働き盛りである。
 そして、いつもの道を歩く。しばらく歩いていると「追浜壮」なる文字が見えてくる。ここの201号室が俺の家である。気づいたときにはここにいた。もう9時を回っていたのでソファーベット(といってもソファー時は普通の布団を三つ折に、ベット時はそれを広げたもの)をベット状態にして寝かせてあげた。小さい頃がうらやましい。俺にも、こんな時期が合ったのだろうか。俺はなぜ昔の思い出がないのだろうか―

 「だいぴょん!だいぴょん!」
 「ゆーりん!」
 「もう、遅いぞ、だいぴょん。そんなんじゃ京急の運転士なんかなれいぞ!」
 「ハハハハハハ・・・」

 ???

 「これなに?この電車。」
 「300形だよ。」

 ??? 俺? 俺の隣の少女は誰だ?

 「わぁ、海だぁ。海だよ、海」
 「きれいだなぁ。あれ江の島じゃん。」
 「あっ、本当だ。」
 「海、ゆりあみたいにきれいだよ。」
 「ばーか」

 ??? 江の島? 江ノ電? 海?

 波の音が聞こえ、灯台のある海岸
 「もう、絶対そんな冷たくしちゃだめだよ。」
 「うん。」
 「どんなことがあっても私は雄大くんのこと愛してるから。」
 「うん」
 
 ??? なつかしい? ゆりあ?

 「ゆりあぁー! ゆりあぁーー!!」

 「これ、まさか・・・。」
 10代ぐらいの若い男女の写真が線路に散らばっている。男のほうは俺だということがかすかにわかる。女のほうはゆりあちゃん?俺の横に青ざめた運転士と車掌。京急の制服だ・・・。泣き叫ぶ中年の男女。ゆりあちゃんの両親か?レールやバラスト(線路にある砂利のこと)、電車についている赤い血。線路の周りに散らばっている奇妙な刺身のような肉のような物体。まさか―
 
 「ゆりあああああぁぁぁあぁぁぁあぁーーーーーーーーー!!!」

 ??? 轢死体? 京急? 八丁畷?

 「お兄ちゃん、どうしたの?汗びっしょり。」
 「愛香」
 愛香の顔を見たときとてもホッとした。夢か?何だ、今のは・・・。
 時計を見た。9時18分36秒。そうか、夢か・・・。愛香と俺の服がぬれている。おそらく俺の汗だろう。相当うなされていたようだ。
 
 そんなハプニングをおこしながらも愛香とすごすゴールデンウィークは風のように過ぎていった。そうしてやってきた5月6日。愛香を五反田さんの家に預け、大学に向かった。
 ここで、五反田さんという人を紹介しよう。五反田さんは27歳の京急運転士見習いである。このアパート「追浜壮」の203号室に住んでいる1児のパパで六月には晴れて運転士となる。予定である。今日は五反田さんは仕事は休みなので(ここで断っておくが鉄道員は週休2日制ではない。鉄道員に基本的に曜日は関係ない。休日が休みだったら日曜日は電車は運休である。ちなみに、元旦や大晦日もバリバリ仕事している。)俺がいない間愛香をあずかってもらうことにした。
 大学で授業中に、とても重大なことを思い出した。

4話 瞬く街並み へ

鉄道長編小説「赤い電車に乗って」TOPへ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送